木彫のクワガタやカブト、そして細密画のクワガタやカブトにも顔がある。この顔にはモデルがある。熊谷直実と平敦盛である
 クワガタの顔が熊谷直実、カブトの顔が平敦盛ではないのだろうか。本人から聞いたわけではないので推測にはなってしまうが、クワガタの方が堂々とした顔付きのように見えるのは多くのヒトが指摘している。

 虫然氏は、この二人の間にあったエピソードを好み、立体物でも平面物でも残している。
 熊谷直実は平安末期の源頼朝に仕えた武将。直実が一ノ谷の戦いで首をとったのが平敦盛である。そのとき、直実は43歳。敦盛は齢17である。後に、敦盛を討ったことの自責の念から、直実は法然の元で出家する。当時、壮年ともいえる年齢の直実が、まだ17歳の若者の命を絶ってしまったことへの慙愧の念と世の無常を嘆き、仏門へ入ったという直実の生き様が虫然氏の心に響いたということだ。

 クワガタとカブト以外にも鷹と小鳥の細密画もある。圧倒的な強さを誇る鷹に挑む、非力な小鳥が挑むさまが美しく描かれている。戦国の世といえども、無情な世であることはやはり嘆かわしい。